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ハンカチを、三太の鼻にあてがった。

「あ、あ、あ……!」

三太はちょっと、手足をバタバタさせたが、すぐに、ぐったりと気を失ってしまった。

「どうした、あにき、うまくいったか」

「さいくはりゅうりゅうよ。クロロホルムのききめに、まちがいがあってたまるもんか」

「よし、それじゃおれがかついでいこう。しかし、だれも見てやしなかったろうな」

「だれが見てるもんか。出帆だ。急ごうぜ」

三太をかついだふたりの男は、そのまま船のなかに、すがたを消して、やがて、あのいまわしい怪汽船、寶石丸は岸ぺきをはなれた。

だが、これらのようすを、だれ知る者もあるまいと思いのほか、さっきからできごとを、殘らず見ていた者があった。

しかも、そのひとというのが、大野老人の助手、あの口のきけない牛丸青年なのだ。

牛丸青年も劇場から、大野老人のあとをつけ、さっきからものかげにかくれて、ようすをうかがっていたのだが、いままさに、船が岸ぺきをはなれようとするせつな、ものかげからとびだすと、パッといかりにとびついた。

いかりは水面をはなれると、ガラガラと、しだいに高くまきあげられていく。そのいかりに両足をかけ、ふとい鉄のくさりにすがりついた牛丸青年のすがたは、まるで船についたかざりかなにかのように見えた。

そんなこととは夢にも知らない、寶石丸の俔M員は、船をあやつりそのまま遠く、枺�┩澶韋�勝郡摔工�郡螄�筏皮い盲俊�

金田一耕助の一行が、かけつけてきたのは、それから間もなくのことだったが、そのじぶんには船體はおろか、船のはきだす煙さえも、もうそのへんには殘っていなかったのだった。

文彥の秘密

金田一耕助や等々力警部が、じだんだふんでくやしがったことはいうまでもないが、それにもまして力をおとしたのは、文彥と香代子である。

ああ、その船には文彥のおかあさんと、香代子のおとうさんが、とらわれびととなってのっているのだ。そのいどころがやっとわかって、やれうれしやと思う間もなく、船はまた、ゆくえ知れずになったのだった。

「なあに、心配することはないさ。船の名もわかっているんだから、すぐ手配をしてつかまえてしまう。まあ、安心していなさい」

等々力警部は、文彥と香代子の肩をたたいて元気づけた。

「それにしても三太はどうしたろう。あいつもひょっとしたら悪者につかまえられたのじゃないでしょうか」

金田一耕助は心配そうな顔色だった。

一同は、それからすぐに、海上保安庁へかけつけて、怪汽船、寶石丸のゆくえをさがしてもらうようにたのみこんだ。

「さあ、こうしておけばだいじょうぶだ。あしたまでには船のゆくえもわかるよ。ああ、もうすっかり日が暮れたな。とにかくいちおう、警視庁へ帰ろうじゃありませんか」

そこで、一同が警視庁へひきあげてくると、そこには意外なひとが待っていた。それは文彥のおとうさんだった。

金田一耕助は、ゆうべ文彥のおかあさんがさらわれると、すぐに大阪の出張先へ電報をうっておいたのだが、おとうさんはそれを見て、大阪からひきあげてきたというわけなのである。

「ああ、おとうさん!」

「おお、文彥か。くわしいことは刑事さんたちから話をきいたが、おまえ

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