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そう叫んで文彥の手をとると、
「さあ、いこう、むこうへいこう、香代子。牛丸。おまえたちも気をつけて……」
文彥の手をとった老紳士は、逃げるように勝手口からなかへはいると、さっきのへやへ帰ってきた。そして、そこで文彥の手をはなすと、まるでおり[#「おり」に傍點]のなかのライオンみたいに、ソワソワとへやのなかを步きまわりながら、しどろもどろのことばつきで、
「文彥くん、もういけない。きょうはゆっくり、きみにごはんでも食べていってもらおうと思っていたのだが、そういうわけにはいかなくなった。きみ、すまないが帰ってくれたまえ。そして、二度とこの家へ近寄らぬように……そのうちにわしのほうからたずねていく。さあ、早く、……早く帰って……いや、ちょっと待ってくれたまえ」
そこまでいうと老紳士は、風のようにへやのなかからとびだしていった。
文彥はあっけにとられて、キツネにつままれたような気持ちだった。いったい、くぎづけにされたあのダイヤのキングには、どういう意味があるのだろう。そしてまた、この家のひとたちは、いったいどういう人間なのだろうか。
あの老紳士にしても、香代子という少女にしても、また、口のきけない牛丸にしても、けっして悪いひとたちとは思えない。しかし、なんとなく気味が悪いのだ。あのふしぎな老婆といい、地底からひびくみょうな音といい、この家をつつむ空気のうちには、なにかしらただならぬものが感じられるのだ。
文彥はぼんやりと、そんなことを考えていたが、そのときまたもや、だれかにジッと見つめられているような気が強くした。文彥はハッとしてへやのなかを見まわしたが、そのとき強く目をひいたのは、あの西洋のよろいである。
ああ、やっぱりあのよろいのなかには、だれかいるのではあるまいか。そしてかぶとの下から、じぶんを見つめているのではないだろうか……。
文彥はなんともいえぬ恐ろしさを感じたが、それと同時に、どうしてもそれをたしかめずにはいられない、強い好奇心にかられた。文彥はソッとよろいに近づいていった。ああ、たしかにだれかがかくれているのだ。かすかな息づかいの音……。
だが、文彥がいま一步でよろいに手がふれるところまできたとき、あわただしい足音とともに、帰ってきたのは老紳士だった。
「ああ、文彥くん、そんなところでなにをしているのだ。さあ、これを持ってお帰り。日が暮れるとあぶない。早くこれを持って……」
見ると老人の手のひらには、金色の小箱がのっている。
「おじさん、これはなんですか?」
「なんでもいい。おかあさんにあげるおみやげだ。もし、きみのおとうさんやおかあさんがお困りになるようなことがあったら、この箱をあけてみたまえ。なにかと役に立つだろう」
老人はそういうと、むりやりに黃金の小箱を、文彥のポケットに押しこみ、
「さあ、早くお帰り、そして、もう二度とここへくるんじゃありませんぞ。そのうちに、きっとわしのほうからたずねていく……」
老人はそういって、押しだすように玄関から、文彥をおくりだすと、バタンとドアをしめてしまった。
文彥はいよいよキツネにつままれた気持ちである。それと同時になんともいえない気味悪さをおぼえた。文彥はワッと叫んでかけだしたいのを一生けんめいこらえて、その家の門を出ると、足を早めて、さっ